AGA遺伝子検査の妥当性(2017年度版)


本日は多くの人にとって謎の「AGA遺伝子検査」について解説します。

AGA遺伝子検査とはアンドロゲンレセプター遺伝子(アンドロゲン受容体遺伝子)という人間の男性ホルモンに関わる遺伝子を検査し、AGAの治療薬(フィナステリド・プロペシア)による治療効果が望めるかあらかじめ判断することのできる検査です。従来はCAGリピート数とGGCリピート数の和によってAGAが発症しやすいかどうかのリスク判定に使われてきましたが、近年はあまり信憑性が無いという事で重要視されなくなってきています。それに代わってCAGリピート数単体の値によってフィナステリド治療の効果があるかどうかを判断する方法が主流となっていく流れになっています。

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CAGリピートやGGCリピートとは?

ところでCAGリピートやGGCリピートとはいったい何でしょうか。遺伝子(DNA)は
我々人間にある60兆個近くある全ての細胞に存在する体の設計図のようなものです。各細胞のDNAは全て「共通」であり、この設計図が基となって体の様々な器官が作られていきます。全体の99.9%のDNA情報は誰でもほぼ共通となっており、わずか0.1%のみが異なると言われています。たったの0.1%の違いで人間の個性が形作られというのは面白いですね。ほんの少しでもDNA配列が違っただけでイケメンに生まれたり髪の毛ふさふさになれたかもしれないわけです。人生は無情です。

この遺伝子情報を検査することでガンやAGAなどの発症リスクがわかるようになりました。後10年もすればさらに詳細なことがわかるようになり、ガン予防などが劇的に進むと予想されています。

DNAは簡単に言ってしまえばG、C、T、Aという4種類の塩基から成り立っています。人間の体が4種類の記号の並びによって作られていると考えてもらってもいいでしょう。このうちC、A、Gが順番にCAGと並んでいたら、CAGリピート数は1となります。CAGCAGは2回繰り返されているのでリピート数が2となります。同様にGGCリピート数もGGCGGCでリピート数2となります。それぞれのリピート数は個人によって異なり、これによって男性の機能であったりAGAの発症に関わるのではないかと考えられているのです。

なお、CAGリピート数は人種によって長い短いという傾向があり、アフリカ系の人は短め、白人は普通、アジア人は比較的長めになるという研究論文が出ています(Sartor O, Zheng Q, Eastham JA (February 1999). “Androgen receptor gene CAG repeat length varies in a race-specific fashion in men without prostate cancer”. Urology. )。

まず、AGA検査をするとAGA発症リスクがわかるという考え方の元になった論文が2001年に出ました。この論文は男女を含む100人程度を対象とした調査結果が元になっており、わりと小規模なものとなっています。調査ではAGAを発症している人は、発症していない人に比べると比較的CAGリピート数が少なかった事が判明しました。この論文を元にして2005年のプロペシア処方解禁以降、大手のAGAクリニックでAGA遺伝子検査を実施するようになりました。病院での検査費用の相場は20000円ほどとちょっと高いので実際に受けた人はさほど多くないためにインターネット等での口コミも少なく、遺伝子検査自体があまり知られていない印象を受けます。

現在の一般的なAGA遺伝子検査ではCAGリピート数とGGCリピート数を調べ、その合計が38を下回るとAGAになりやすく、上回るとAGAにはなりにくいといった結果を提示しています。その38という数字は前述した論文調査結果が元になっています。38を境目に値が小さい人に比較的薄毛の人が多かったのです。

しかし、まず調査対象が100人程度と少ない事、さらに38を下回っても薄毛じゃない人、38を上回っても薄毛の人が結構多いなど、CAGリピート数とGGCリピート数の合計が果たしてAGA発症リスクを正確に診断できているのだろうかという疑問は各所より出されていました。

 CAG/GGCリピートの合計値とAGA発症リスクは無関係だった

そこで2012年にさらに大規模な調査が行われました(アンドロゲン受容体遺伝子多型と男性ホルモン性脱毛症のリスク:Androgen receptor gene polymorphisms and risk for androgenetic alopecia)。これは2074人のAGA患者とAGAを発症していない健常者1115人を対象とした調査で、2001年とは桁が違う規模で行われています。そしてこの調査でCAGリピート数とGGCリピート数の合計の値と、AGA発症の間には明確な相関が無い(つまり関係が無い)と結論づけられました。この論文の調査結果を信じるならば、現在AGAクリニックで行われているAGA遺伝子検査はあまり意味が無いようにも思われます。

対象となる人種によって調査結果が変わる傾向もあり、欧米人対象の調査なのか日本人を含むアジア(特に東アジア圏)を対象とした調査なのかによっても結論が異なる現象も起きています。現在のAGA研究ではまだ遺伝子レベルでAGA発症リスクを正確に判断することは難しいと言えるでしょう。

ちなみに上記調査でCAGとGGCリピート数とAGA発症リスクの間に相関は見つけられませんでしたが、rs6152と呼ばれるX染色体上のアンドロゲン受容体AR遺伝子の最初のエキソンに位置するSNP(他の人と決定的に異なる個々人固有の遺伝子情報)は、白人においてはAGAを発症する能力を強く示しているという結論が出されています。これについてはまたいつか掘り下げたいと思います。

 CAGリピート数単体は大事

それでは全くAGA遺伝子検査は全く意味が無いものなのでしょうか。そう結論づけてしまうのは早計です。CAGリピート数の値によってフィナステリドが効きやすいかどうかを調査した論文がありまして、CAGリピート数が24付近を境目に、小さければフィナステリド治療効果が高く、リピート数が大きければ治療効果が低いという調査結果が日本人を対象に行われています。こちらは150人対象と規模は小さいのですがCAGリピート数とフィナステリド治療の効果の間には一定の相関が認められたといえるのではないでしょうか。先述しましたように遺伝子情報は人種によって微妙に傾向が異なり、特にCAGリピート数はアジア人はアフリカ人や白人よりも長い傾向にあるために、欧米人に対して調査した論文をそのまま我々東アジア人に対して適用してもいいのかは微妙です。その点この論文は日本人を対象にしているために重要です。

まとめますと、従来は盛んに宣伝されてきた「CAGリピート数とGGCリピート数の合計の値でAGA発症リスクを判断する」のではなく、「CAGリピート数の値でフィナステリド治療が効果的かどうかを判断する」のが現状のAGA遺伝子検査を使った治療方針になりつつあります。

とある全国大手のAGAクリニックの院長さんに伺ったところ、クリニック全体としてはCAGリピート数とGGCリピート数の合計でAGA発症リスクを判定することになっているので一応患者さんにはそのように説明してはいるが、現場ではそこまで合計数には重きを置いてはおらず、それよりもCAGリピート数の方を遥かに重視して患者さんに説明されているようです。数年後には大半のクリニックでCAGリピート単体での治療方針を決めるようになっているかもしれませんね。

AGA遺伝子検査をやる価値はあるのか

さて、遺伝子(DNA)検査は年々手軽に、また安価にできるようになってきており、口の中の粘膜や血液、毛髪など人間の体の組織であればどこを使っても同じ遺伝子情報が検査できるようになりました。簡易な検査キットでは口の中の粘膜を採取する方法がよく用いられています。

大手のAGAクリニックでの検査なら20000円付近が相場、自分で口の粘膜を採取して郵送するタイプのAGA遺伝子チェック用のキットであれば12000円ほどかかります。安価になってきたとはいえまだまだ高いですね。この金額を安いと捉えるか高いと捉えるかは個人差がありますが、もし極端にCAGリピート数が高くてフィナステリドの治療効果が見込めない人がAGA遺伝子検査をせずに何年もフィナステリドを服用し続けるのは金銭的にも無駄ですし、副作用が比較的少ないとはいえ効く見込みの無い医薬品を服用し続けるのは体への影響もありますので、検査するに越した事は無いでしょう。まあ、そこまで積極的に検査を勧める程では無いですが…。検査料5000円ぐらいに下がってくれませんかねえ。

もし行きつけの病院で検査を実施していればやってもらってもいいですが、個人的には安価な郵送検査キットで十分かなと思います。検査キットだと正確な遺伝子情報がとれないという事は基本的にありません。病院でも検査キットでもきちんと口の粘膜を採取できれば問題無いです。

まとめ

以上AGA遺伝子検査について皆さんが抱きがちな疑問点などについて解説してみました。もう少し安ければ(せめて5000円)なら無条件でお勧めしますが現状では12000以上かかってしまいますし、やるやらないは皆さんの判断しだいでしょう。やった方がいいのは間違いないです。ただしCAGリピート数が低くてもフィナステリドが効かない可能性はありますし、その逆もしかりです。あくまで傾向・可能性を予め判断できるものです。それに12000〜20000円を投資するかどうか、悩ましいですね…。

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